業務内容

契約法務

eスポーツという新しい分野においては、関連する法令の改正が頻繁に行われている上、プラクティス(実務慣行)も日々変化しています。このような分野において、将来起こりうる問題を予測し、リスクを回避するためには、契約書の内容も迅速かつ適切にアップデートしていく必要があります。当事務所は、eスポーツに関連する法令及びプラクティスの最新情報を随時収集し、クライアントの皆様のニーズに適したサービスを提供いたします。
eスポーツに関連する契約としては、マネジメント契約(選手契約)やゲーム制作に関するライセンス契約等が考えられます。

マネジメント契約(選手契約)

マネジメント契約とは、eスポーツの競技や啓蒙活動などによって収入を得るeスポーツ選手と、ゲームメーカーやスポンサー、ゲームチーム等が結ぶ契約をいい、単に「選手契約」と呼ぶこともあります。

マネジメント契約(選手契約)に含まれる規定は様々であり、選手業務の範囲、報酬・賞金の分配、肖像権・パブリシティ権、競業・移籍の規制、アカウント所有権等、注意すべき条項は多岐にわたります。これらについて、将来起こりうる不測の事態に備えて、それぞれ適切な内容の規定を置いておくことが重要となります。

また、マネジメント契約(選手契約)の法的性質としては、大きく「委任契約(準委任契約)」と「雇用契約」の2種類が考えられ、これは単に契約書の題名で判断されるのではなく、契約の実質的な内容や、業務内容の実情等を踏まえ、総合的に判断されることになります。
一般的に、eスポーツ選手は、業務について指揮命令を受けることはなく、ゲームプレイについての能力を提供することを内容とする契約をしていると考えられるため、「委任契約(準委任契約)」であることが多いように思われます。もっとも、雇用契約に該当する場合は、労働基準法が適用され、事業者(使用者)側には様々な規制に拘束されることになりますので、特に注意が必要です。

eスポーツはまだまだ未開の分野であり、契約書についても参考となる例が十分でなく、また、その契約書について争われた裁判例等の蓄積も少ない状況です。
契約書のドラフト・レビューの段階から、弁護士に依頼することによって、個別の事情を踏まえ、事業者側にとっても選手側にとっても、適切なリスク管理が可能となります。

ゲーム制作に関するライセンス契約

ゲームには、イラスト、テキスト、音楽、プログラムなど、多くの著作物が含まれていますが、それぞれの著作物について、ゲーム会社の従業員が職務上制作したものならば、法人著作(著作権法15条)として、会社の著作物となります。

他方、これらの制作をクリエイターへ外注した場合は、外注先のクリエイターの著作物となります。したがって、ゲーム会社による当該著作物の使用にあたっては、ゲーム会社・クリエイター間において契約を締結する必要があります。締結する契約としては、
①著作権をクリエイターからゲーム会社に譲渡する「著作権譲渡契約」、
②クリエイターがゲーム会社に著作物の利用を許諾する「著作権利用許諾」が考えられます。

特に、②の著作権利用許諾の場合は、許諾の範囲や再許諾の可否を含め、eスポーツの大会の開催やネット配信または海外展開も見越して、漏れのないように利用の対応を定めておくことが必要です。

前払式支払手段の発行に関する登録届出業務

オンラインゲームで使用されるアプリ内通貨やアイテムが、資金決済に関する法律(「資金決済法」)における「前払式支払手段」に該当する場合は、資金決済法上の規制を遵守する必要があります。

前払式支払手段とは

資金決済法では、以下の3つの要件を満たすものが前払式支払手段に該当することとされています。

  1. 金額等の財産的価値が記載・保存されること(価値の保存)
  2. 対価を得て発行されること(対価発行)
  3. 商品・サービスの代金の支払い等に使用されること(権利行使)

この点について、オンラインゲームで使用される仮想通貨、いわゆるアプリ内通貨は、ゲームをプレイするためや、アイテムを購入するために使用されます。そして、アプリ内通貨の額はゲーム提供者のサーバーに保存されているため、財産的価値が記載・保存されているといえ、上記①の要件を満たします。
また、アプリ内通貨が、それに相応する対価を支払うことによって発行される場合、②の対価発行の要件も満たします。
そして、アプリ内通貨が、ゲームをプレイするためや、アイテムを購入するためなど、商品・サービスの代価として使用される場合、③の権利行使の要件も満たすこととなります。
したがって、一般的なアプリ内通貨であれば、上記①~③の要件を満たす場合が多く、資金決済法の規制を受けることとなります。

前払式支払手段の種類

資金決済法の前払式支払手段には、「自家発行型」と「第三者発行型」の2種類があります。仮想通貨の発行者が提供するサービスのみで使用できるのが「自家発行型」であり、第三者が提供するサービスにも使用できるのが「第三者発行型」です。
この点について、ゲームのアプリ内通貨であれば、基本的には「自家発行型」に該当します。

資金決済法上の規制

「自家発行型」は、事後届出制がとられており、基準日(3月31日および9月30日)においてアプリ内通貨の未使用残高が基準額(1000万円)を超えた場合、法務局において発行保証金(未使用残高の2分の1の額)の供託を行ったうえで、発行届出書等を所管する財務局に届け出ることが必要となります。(但し、資金決済法では、有効期限が6カ月以内の前払式支払手段については、適用が除外されているため、ゲームアプリによっては、アプリ内通貨の有効期限を6カ月以内に設定することで、資金決済法の適用を免れているものもあります。)

また、前払式支払手段の発行者は、以下の情報を前払式支払手段に関する内閣府令に従い表示または情報提供する必要があります。

  • 発行者の氏名、商号または名称
  • 利用可能金額または物品・サービスの提供数量
  • 使用期間または使用期限が設けられている場合は、その期間または期限
  • 利用者からの苦情または相談を受ける窓口の所在地および連絡先(電話番号等)
  • 使用することができる施設または場所の範囲
  • 利用上の必要な注意
  • 電磁的方法により金額等を記録しているもの(未使用残高または当該未使用残高を知る方法)
  • 約款等が存する場合には、当該約款等の存する旨また、アプリ内通貨の払戻しをしようとする場合にも、一定の事項につき、公告および情報提供を行う必要があります。

※なお、アプリ内通貨の販売は、「特定商取引に関する法律」の通信販売に該当するため、同法で要求される情報もあわせて表示することが必要です。

当事務所では、法務局に対する上記供託や、金融庁(管轄財務局)への上記届出業務について、代理人として手続業務を代行するだけではなく、上記情報提供の方法等についてのアドバイスも行っております。

景品表示法に関するアドバイス-賞金付大会の適法性について

eスポーツ大会において成績上位者には高額な賞金が付与されることがありますが、当該賞金が不当景品類及び不当表示防止法(「景品表示法」)2条3項の「景品類」に該当する場合、その最高額・総額について景品表示法上の規制に抵触する可能性がありますので、注意が必要です。

「景品類」とは

景品表示法における「景品類」については、以下のとおり定義されています(景品表示法2条3項)。

  1. 消費者を誘引する手段として
  2. 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して提供する
  3. 物品や金銭などの経済上の利益

eスポーツのプレイヤーが、大会を主催している会社が販売しているゲームソフトを購入し、課金してより強いアイテムなどを入手した方が、他のプレイヤーとの対戦において有利となる場合には課金へのインセンティブが生じ(上記①②)、その結果として成績優秀者に与えられる賞金(上記③)は、「景品類」に該当する可能性があります。

景品表示法上の規制について

公正取引委員会告示により、「特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法によって景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価格を定めること」を懸賞と定義しています。
そして、景品表示法に関連する告示である「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」により、懸賞によって提供する景品類の最高額は、「懸賞に係る取引の価格の20倍の金額(当該金額が10万円を超える場合にあっては10万円)を超えてはならない」と定められております。
そこで、eスポーツ大会において賞金が成績優秀者に付与される場合、当該eスポーツ大会による賞金の提供は「懸賞」に該当するため、当該賞金の上限が10万円に制限されるのではないかとの懸念が指摘されてきました。

この点、消費者庁は、「取引の相手方に提供する利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供にあたらない」(平成26年12月1日消費者庁長官決定)との運用基準により、「参加者が、高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者にそれを見せることが仕事の内容として期待されており、大会等の競技性及び興業性の向上に資する者である」場合は仕事の報酬であり景品表示法第4条の規定の適用対象とならないと考えられる」(令和元年9月3日消費者庁表示対策課長作成「法令適用事前確認手続回答通知書」)と回答しました。

もっとも、これによって、すべてのeスポーツ大会開催における参加者への賞金提供が仕事の報酬であると認められたわけでは無く、「景品表示法における景品類の制限の趣旨の潜脱と認められるような事実関係が別途存在しない」(同通知書)ことが条件となる見解であり、捜査機関の罰則の適用を含めた司法判断を拘束するものではないと結論付けています。そこで、個々のeスポーツ大会開催については、法律の専門家による事前の確認を得ることが、リスクを回避する上で有益です。当事務所の所属弁護士は、日本においてeスポーツ大会が数多く行われるようになった初期の段階以来、上記のような景品表示法上の論点について、法的助言を提供しています。

著作権・商標権に関するアドバイス

著作権とeスポーツ

eスポーツにおけるゲームにつき、プレイヤーがゲームをプレイする際に画面に表示される映像は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(著作権法2条3項)として、「映画の著作物」(同法10条1項7号)に該当します。
また、ゲームソフトに利用されるプログラムは、「プログラムの著作物」(同法10条1項9号)に該当します(最高裁平成13年2月13日民集55巻1号87頁「ときめきメモリアル事件」)。
このように、ゲームは著作権法上の「著作物」に該当するため、例えばeスポーツ大会をオフラインで開催し、プレイ画面をスクリーンで映し出す場合や、ネット配信する場合には著作権侵害の問題が生じうることから、基本的にはIPホルダー(主にゲームメーカー)の許諾が必要となります。(他方、IPホルダーが提示している規約・ガイドラインに遵守していれば個別の許諾の必要がないものも存在します。)

なお、無許可でゲームを利用して著作権侵害を行った場合、著作権者から差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求を受ける可能性があるのみならず、刑事責任として10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。

そこで、eスポーツ大会を開催する場合や、eスポーツ施設を営業するには、著作権者より利用許諾を得る必要がある場合があります。
当該利用許諾においては、トラブルを未然に防ぐためにも、次のような条件について合意しておくことが望ましいといえます。

  • ゲームの利用方法・配信方法
  • ゲームの使用料
  • ゲームの二次使用に関する方法
  • eスポーツ大会から利益が出た場合の利益分配
  • eスポーツ大会のプロモーションを行う際の広告素材の利用方法
  • eスポーツ大会の配信方法
  • ゲームのプレイ録画映像の利用態様

当事務所では、eスポーツ大会の開催において、著作権法の観点から的確にアドバイスを行うことで著作権侵害のリスクを未然に回避したり、利用許諾に関するライセンス契約のドラフト・レビュー、相手方との交渉等の対応を行っております。

商標法とeスポーツ

商標とは、商品やサービスを他のものと区別するためのマークのことを意味しており、商標登録をされている場合には、商標権者はその権利侵害に対して損害賠償請求、差止請求といった責任追及をすることができます。

ゲーム名やゲームメーカー名、ロゴマークなどは、基本的に商標登録されており、一般的にはゲームメーカーである企業が商標権を有しています。

eスポーツ大会を開催する場合、大会名にはゲームタイトルが含まれることが通常ですし、広告宣伝や大会の告知などの際にも、これらの商標を利用する必要が生じてきます。

そのため、eスポーツ大会を開催するためには必要と考えられるゲーム名、ゲームメーカー名やそのロゴマークなどを利用するためには、商標を使用することとなり、商標権に関する権利処理が必要となります。

当事務所では、eスポーツ大会の開催にあたって必要となる商標権の使用に関するライセンス契約の締結業務、その他商標法に関するアドバイスを行っております。

その他関連法令の遵守に関するアドバイス

賭博罪とeスポーツ

eスポーツの大会に参加した選手の参加費を原資として、勝利した選手に賞金を払うことは、刑法で禁止される「賭博」(刑法185条)に該当する可能性がありますので、注意が必要となります。
そして、eスポーツ大会が「賭博」に該当する場合、大会に参加したプレイヤーは賭博罪として「50万円以下の罰金又は科料」(常習の場合は「3年以下の懲役」、刑法185条、186条1項)、主催者は賭博場開張図利罪として「3月以上5年以下の懲役」(刑法186条2項)という刑事罰が科されることとなります。

刑法185条によって禁止されている「賭博」とは、「偶然の勝敗に関して財物を賭けてその得喪を争うこと」をいいます。
「偶然の勝敗」とは、勝敗が偶然の事情によって決せられ、当事者の任意に左右し得ない事情にかかっていることをいい、賭けマージャンのように、当事者の技能が相当影響する場合であっても、偶然性が多少でも認められれば、「偶然の勝敗」にあたるとされています。eスポーツ大会は、プレイヤーの技量だけでは勝敗は決まらず、偶然性によって勝敗に多少の影響が残ることは避けられないため、「偶然の勝敗」に関するものであると判断される可能性が高いものと思われます。
次に、「財物を賭けてその得喪を争う」とは、一定の財物を勝敗に賭けて、その勝者に交付することを予約すること、すなわち勝者が財物を得る反面、敗者が財物を失う関係にあることをいいます。ここでいう「財物」とは財産的価値のある物を広く含み、金銭はもちろんのこと、広く財産上の利益であれば該当します。

この点について、たとえば、勝っても負けても一方当事者だけが費用や財物を負担する場合は、「財物を賭けてその得喪を争う」わけではないため、賭博罪には該当しません。
しかし、eスポーツ大会の賞金をプレイヤーから徴収した参加費から拠出した場合は、プレイヤー間で参加費という「財物を賭けてその得喪を争う」ことになりますので、賭博罪に該当する可能性があります。
他方、参加費ではなく、観客から徴収した入場料から賞金を拠出した場合は、プレイヤーと観客は入場料を賭けて争う立場にはないため、「財物を賭けてその得喪を争う」ものではないと整理できる可能性があります。また、賞金を主催者とは異なる第三者のスポンサーが拠出する場合は、より明確に「財物を賭けてその得喪を争う」ものではないと整理することが可能となります。

eスポーツ大会を安全かつリスクなく主催又は運営する場合には、以上の問題点を含め、あらかじめ専門的な知識や経験が豊富な法律家に事前に相談し、適法性を担保した上で、大会の主催又は運営を行うことが肝要です。当事務所では、賭博罪に該当するリスクを回避する観点からのeスポーツ大会規約の策定やレビュー、大会運営の法的アドバイス等を行っております。

eスポーツと風営法-ゲームセンター規制

不特定多数の来場客がeスポーツをプレイするような営業施設の運営者は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(「風営法」)における、遊技場営業者(風営法2条1項5号)に該当する可能性があります。

そして、遊技場営業者は「その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない」とされておりますので(風営法23条2項)、不特定多数の来場客がeスポーツをプレイするような営業施設においては、大会の勝敗など遊技の結果に応じて賞品を提供することが禁止されていると考えられます。

このため、営業施設の運営者が、当該営業施設の知名度を上げるために、参加費無料でeスポーツイベントを開催する場合において、優勝者に賞金・商品を提供してしまうと、風営法に抵触することになります。

この禁止規定は、ゲーム会社に直接適用されるわけではありません。しかし、自社のゲームタイトルを冠したeスポーツイベントで風営法違反が摘発されるようなことがあれば、レピュテーションへの影響があり得るため、ゲームセンターや上記のような営業施設からeスポーツイベント開催の許諾を求められた場合は、この禁止規定を含む法規制に抵触することのないよう、注意することが肝要です。
なお、イベントの参加料・ゲームプレイ料が無料の場合や、いわゆるオンラインイベントの場合には、基本的に風営法は適用されないと考えられます。

当事務所では、eスポーツ練習場やeスポーツカフェ等の開業・運営について、風営法の規制に関するアドバイス等を行っております。