チーム・選手間の選手契約に関する注意点

eスポーツが徐々に社会に浸透し、eスポーツ選手がプロとして活動するケースが増加するなか、eスポーツ選手と所属チーム間で締結される「選手契約」の重要性が増しています。
通常のビジネスにおいては、取引先との間で契約書を締結することが重要であることは言うまでもないですが、スポーツ業界においては、選手・チーム間において契約書を締結せず、口約束(口頭契約)のまま契約関係が進行してしまうケースがあり、eスポーツ業界においてもそのような事例が少なくないようです。
契約書を締結せず、後に選手・チーム間において業務範囲や報酬等でトラブルが発生している事例もありますので、そういった紛争や問題発生を防止するため、しっかりと契約書の作成・締結をしておく必要があります。

また、eスポーツに限らず、プロスポーツの選手契約書については、雛形や条項例がインターネット上で散見されます。一見便利そうに見えるこれらの雛形ですが、一律的な内容であるため、必ずしも各選手やチームの特性、ニーズに対応しているわけではありません。
また、具体的な法的問題が生じた際には、雛形だけでは対応が難しいケースも多々あります。そこで、雛形や条項例をベースにしつつも、個別事案に合わせた修正が必要となります。

本コラムでは、eスポーツにおける選手契約の法的性質を踏まえた上で、個別に問題となりうる注意点について、説明します。

1.選手契約の法的性質について

選手契約の法的性質としては、大きく「委任契約(準委任契約)」と「雇用契約」の2種類が考えられ、どちらに該当するかは単に契約書の題名で判断されるのではなく、契約の内容や、業務内容の実情等を踏まえ、総合的に判断されることになります。

雇用契約に該当する場合は、eスポーツ選手は労働基準法の「労働者」に該当しますので、チームは「使用者」として、労働法(労働時間・賃金等)の遵守が求められます。さらに、チームが選手との契約を一方的に終了させることは解雇に該当し、厳しい要件のもとで有効性が判断されることになります。

「労働者」の該当性については、①仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、③勤務場所・時間についての指定・管理の有無、④労務提供の代替可能性の有無、⑤報酬の労働対償性、⑥事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)、⑦専属性の程度、⑧公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)を総合的に考慮して判断することになります。

eスポーツ選手についてみると、業務内容が選手個人の技量や裁量に委ねられており、基本的には時間的場所的拘束が少なく、選手毎の個別合意による年俸制で報酬が支払われたり、業績が良い選手に対して高い報酬が支払われる場合には、「労働者」ではないと判断される可能性が高まると考えられます。

反対に、選手の活動に対してチーム側から詳細な指揮命令があり、勤務の時間と場所が厳密に指定され、必要な機材等が全てチーム側から提供され、業績にかかわらず一定額の報酬が選手に支払われるような場合には、「労働者」に該当すると判断される可能性があります。

このように、「労働者」該当性については、各事情を総合して考慮することになり、複雑な判断が必要となることから、注意が必要です。

以下、eスポーツ選手契約について、特に問題となる点について説明します。

2.パブリシティ権について

eスポーツ選手単体で知名度があるような場合には、選手の写真や名前を利用したり、グッズを制作したりして、経済的効果が生まれるケースがあります。
そこで、eスポーツ選手にも、その容貌等を許可なく撮影されない権利や、肖像・氏名を無断で使用されないというパブリシティ権があります。

本来、パブリシティ権はeスポーツ選手個人に帰属する権利ですが、選手個人には法的な専門知識に乏しい場合もあり、仮にパブリシティ権が侵害された場合の防御も、不十分となる可能性があります。

そこで、eスポーツ選手に関するパブリシティ権の管理についても、チームが選手との間で締結する選手契約において、チームが包括的に管理することを雛形として用意することが考えられます。

その場合、第三者が無断で所属選手の肖像権やパブリシティ権を侵害した場合には、チームが速やかに警告及び、訴訟などの法的措置をとることが重要となります。選手の肖像権やパブリシティ権をチームが包括的に行使するとされている以上、権利侵害を放置することなく、適切な権利行使を図ることが重要となります。

3.選手の移籍制限について

プロスポーツ業界では、選手の移籍に関し、チームの承諾や移籍金の支払い義務を課している場合があります。これは、選手がいつでも自由に他のチームへ移籍できるとすれば、チームが選手の獲得や育成のために費やした多大な労力やコストが無駄になってしまうおそれがあるからであり、そのような移籍制限については、一定の合理性があるように思われます。

そこで、eスポーツ選手契約においても、移籍の制限に関する条項を付しておくケースが見られます。もっとも、選手の移籍を過度に制限することは、法的観点から問題となり得るので注意が必要です。

(1) 憲法・民法上の問題

チームが、選手が退団後に他チームへ入団することを一切禁止することは、憲法上保障された職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害するおそれがあります。
また、選手が脱退後に他のチームと契約することは競業避止義務の問題として扱われ、目的の正当性、選手の地位、競業制限範囲の妥当性、代償の有無を検討し、合理的範囲を超える場合には、公序良俗違反(民法90条)として無効となる可能性もあります。

(2) 競争法上の問題

チームが、チーム間の選手の移籍や他団体主催大会への出場を制限することは、独占禁止法に抵触するおそれがあります。

プロスポーツ分野における、選手の移籍に関する制限については、2019年6月17日に公正取引委員会が公表した「スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について」によれば、チームが所属選手の移籍を過度に制限することが、独占禁止法に反する可能性を示唆しました。

具体的には、移籍を制限する場合は、①移籍制限により達成しようとする目的の合理性があり、かつ、②達成のための手段の相当性がある場合でなければならないとされております。
そこで、移籍制限を課すとしても、あらかじめ移籍金や移籍の条件を設定しておくなど、移籍の際のルールをチームと選手の間で合意し、契約書に定めておくことが重要です。

さらに、法的観点のみならず、チームとして移籍に関して不合理な制限を設けている場合、eスポーツ業界内において悪評が広まり、選手の新規参入数の低下にも繋がるおそれがあるため、レピュテーションリスクの観点からも注意が必要となります。

4.アカウントに関する権利について

選手が利用していたアカウントについては、プレイ時間に応じてキャラクターが成長するゲームなど、アカウント自体が価値を有する場合があります。
そこで、選手にとっては、チームの離脱や移籍後も、自己の利用していたアカウントを継続して利用できるかが問題となります。

アカウント利用の法的性質は、ゲーム運営者の利用許諾に基づく利用権と考えられます。
そして、一般的には、アカウントは利用者個人(選手)に対して許諾がなされており、ゲームの規約には、アカウントの譲渡等について禁止する条項が入っていることからすれば、利用権は選手に帰属すると考えられます。

そこで、選手契約においては、アカウントの利用に関する権利について、契約終了後使用しない等の条項を規定しておくことも考えられます。

5.プレイヤーが未成年の場合について

eスポーツは老若男女が楽しめるスポーツであり、プレイヤーの年齢の幅も大きく、未成年のプロプレイヤーもこれから増加することが予想されます。

まず、未成年者が法律行為(契約締結行為等)を行うには、その法定代理人である親権者の同意が必要であり(民法5条1項)、同意なき契約の締結は取り消すことができます(民法5条2項)。そのため、未成年者と契約をするチームは、この規制に留意する必要があります。

なお、未成年者が自らを成年者であることを信じさせるために詐術を用いたときには、未成年は上記取消しを行うことはできないとされておりますので、例えば契約締結時に未成年でないことを表明させること等により年齢確認を行う等、対策をとっている例もみられますが、取り消されるリスクを完全に排除することはできないように思われます。

そこで、未成年と具体的に取引に入る場合には、いかに取り消されるリスクを軽減させるかなどの検討が必要となります(同意の確認方法等の対策等)。

なお、民法改正により2022年4月1日から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられておりますのでご注意ください。

なお、弊事務所では、選手契約のドラフト及びレビューについて、チーム側・選手側の双方の観点から対応しております。eスポーツチーム・選手間の契約について、お困りの際には、弊事務所までお気軽にお問い合わせください。
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